漢方を煎じ薬、散剤、丸薬に使い分ける理由

【※本記事は2021-03-04更新しました】

 

こんにちは、李哲です。 

漢方薬の名称には「葛根湯」、麻子仁丸五苓散など、最後には必ず形を表現する言葉、「湯」「丸」「散」が付きます。

  1. 湯(煎じ薬)
  2. 散(生薬を粉砕した粉、蜜などは混ぜない)
  3. 丸(生薬を粉にして、蜜などと一緒に混ぜて丸めたもの)

なぜ漢方薬は、みんな煎じ薬にするのではなくて、様々な形にしているのか?以下、具体的に説明しますので、参考になると幸いです。

 

煎じ薬は人間の体がもっとも吸収しやすくて、有効成分も多い

煎じ薬はもっとも多い漢方薬の形。

中国で漢方だと言ったら、だいたい「湯薬」(煎じ薬)の意味です。

 

煎じ薬にする大きな理由は、各生薬の有効成分が最大限に出て、人間が吸収しやすいからです。

 

生薬には鉱物類、蛇の抜け殻、植物など様々なものを使います。たとえば鉱物類の石膏・紫石英、人間が消化・吸収するのはとても大変。患者さんの胃腸が詰まって、逆に体調不良を起こすかも知れません。

 

鉱物類の生薬:紫石英の画像

鉱物類の生薬:紫石英の画像

しかし、煎じ薬にすると、分解しにくい生薬でも、1時間以上の加熱で有効成分が十分出て来ます。また、有効成分が液体になるので、人間の体はとても吸収しやすい。患者さんの体は、漢方薬を消化するためのエネルギーを使わなくて済むのです。

煎じ薬は徹底的に・迅速に敵(邪気)を追い払う

 

煎じ薬にしたのは、ほかにも理由があります。

以下、中医学文献を引用して煎じ薬・散剤・丸薬の特徴を説明します。

汤者,荡也,去大病用之。
散者,散也,去急病用之。
丸者,缓也,舒缓而治之。
出典:王好古(1200—1264年)『汤液本草·东垣用薬心法』 

「湯」という文字は、「蕩」(読み:とう)に由来。「蕩」は中国語で「掃蕩」。その意味は、(スル)残らず払い除くこと。つまり、煎じ薬は徹底的に・迅速に敵(邪気)を追い払うこと

 

素早く効果を出さないといけないのは、緊急救命が多いです。

たとえば心臓発作で死ぬ寸前になったとき、コレラの嘔吐・下痢・脱水で瀕死になったとき、煎じ薬のほうが強心剤みたいに心臓を動かせて、致命的な循環障害・低血圧・呼吸障害を避けるのです。

 

もっとも有名な強心剤は、四逆湯。

ここから派生されたのは、通脈四逆湯・当帰四逆湯・茯苓四逆湯など。みんな強心作用がある上に、ほかの作用をきたす漢方薬です。

 

以下はニハイシャ先生の症例。

死ぬ寸前になった患者さんを四逆湯などで救って来ました。

 

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「去大病用之」の直訳だと、重病を治す専用に見えますが、風邪など軽い症状にでも煎じ薬を使います。なぜなら、風邪はちゃんと早く治さないと、体の深部に入り込んで、さらなる変数を生み出すからです。

 

中医学は病気がどのように伝達するかを分かっているので、病気がA段階からB段階に入ったとき、次のC段階に入らないように素早く治療します。だから、中医学は予防医学の模範だとも言えます。

 

風邪の漢方薬だと、皆さんは葛根湯を思い出すかも知れませんが、ほかにも麻黄湯・桂枝湯・桂枝加朮附湯・桂枝加葛根湯など様々な煎じ薬があります。

 

一つ例をあげると、麻黄湯はインフルエンザの高熱・汗が出ない・節々の痛みを治すとき効果バツグンです。近代の漢方薬症例があるので、参考になると幸いです。

 

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「散剤」はケガの応急処置によく使う

 

「散者、去急病用之」。

直訳すると、急病に使う。

大昔の急病は、大半がケガの骨折・出血です。

 

ケガで出血したとき、煎じ薬は間に合わないし、患部に固定できません。散剤にすると、患部にくっついて、持続的な止血作用・鎮痛作用を果たせます。もちろん、生薬は細かく粉砕してから撒くので、「散剤」だと言うわけです。

 

ニハイシャ先生の弟子が書いた緊急救命の症例が一つあるので、参考にしてください。どれだけ止血作用が強いのか、読んで見れば分かります。

 

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散剤の中には、一つ有名な漢方薬があります。

五苓散。

なぜ散剤にして煎じ薬にしないのか?もっと効きそうな気がするけど…

 

残念ながら、現代医学の研究で分かったのは、たくさんの散剤を煎じ薬にすると効果がガタ落ち。昔の漢方医たちは分かったからでしょうか、最初から散剤にしていますね。

 

五苓散を使った症例、以下のような記事があるので、参考にしてください。

 

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丸薬は滋養強壮剤・慢性的な病気を治すときに使う

丸薬は、生薬とはちみつを混ぜて丸めたのが多いです。人が飲むと、胃袋の中で外側のはちみつが先に溶けて、その後は中の生薬が徐々に吸収されます。ゆっくり吸収されるので、生薬のパワーがジワジワ出てくるイメージ。(例外はある)

 

丸薬は煎じ薬みたいに猛烈なパワーがなくて、しっかり徐々に潤う傾向があるので、滋養強壮剤として使うのが多いです。たとえば、八味地黄丸、杞菊地黄丸、六味地黄丸。

 

「六味地黄丸」は高血圧症の諸症状を治すときも使われています。漢方はこれが良いですね。病気を治すだけではなくて、滋養強壮剤としても使うけど、西洋薬は滋養強壮の薬がありません。「六味地黄丸」の症例は、以下の記事があるので、どうぞご参考に。 

 

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また、丸薬は慢性的な病気を治すのにも得意です。例をあげると、便秘・下痢など胃腸障害を麻子仁丸、烏梅丸、附子理中丸など。以下の記事では、麻子仁丸に関して詳しく説明しました。参考になると幸いです。

 

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丸薬にしたのは、治療効果を配慮して設計されたのもあるけど、患者さんの食感のために作られたのもあります。

 

たとえば、烏梅丸は丸薬にしないと、絶対に飲み込めません。

烏梅丸の中には、お酢に何日も漬けた酸っぱい梅、最強に苦い黄連と黄柏、唇と舌がしびれる山椒などがあります。こんなものを煎じたら、あなたは飲めますか?きっと一口飲んだだけで吐き出します。しかし、丸薬にすると、喉を通せて胃袋に入れて、治療効果をはたすのです。

 

烏梅丸は馴染まない漢方薬ですが、様々な病気を治せます。ニハイシャ先生の症例が一つあるので、参考になると幸いです。

 

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煎じ薬、粉薬、散剤は古来のまま使うべき

 

様々な形の漢方薬の特徴を表でまとめました。

 

  臨床での応用 メリット(特徴)
湯(煎じ薬) もっとも普及されている漢方薬の形態で、様々な内科治療に使う ●有効成分が最大限に出る
●液体なので、とても吸収しやすい
●徹底的・迅速に敵(邪気)を追い払う
●緊急救命:素早く免疫システムを支えて、致命的な死を避ける。
散(粉末タイプ) 外科の骨折・出血に使うのが多い ●患部に貼るので持続的止血作用・鎮痛作用を果たせる
●古来の散剤を煎じ薬にすると、治療効果がガタ落ち
 
丸(丸薬) 内科の慢性的な病気・滋養強壮剤として使う ●ジワジワとゆっくり効いてくる
●飲み込めない漢方薬でも、丸薬にすると飲める

 

現代テクノロジーの発達で、古来の煎じ薬が顆粒になっています。たとえば、ドラックストアで販売している「葛根湯」「麻黄湯」。長期保存が可能、持ち歩きやすいので出張時には便利で助かります。

 

しかし、これはあくまでも利便性があるだけで、本来の煎じ薬の代わりにはなりません。たとえ話をします。麻黄湯は煎じ薬だとすぐ汗を流します。しかし、市販の顆粒タイプの麻黄湯は煎じ薬みたいに汗をかかないので、100%の効果が出ません。

 



古来の漢方薬が煎じ薬、散剤、丸薬にするのは、様々な理由があるわけです。利便性を求めて顆粒タイプが作られるのは理解できますが、漢方薬は煎じ薬が基本。古来の形が最良の形態であることを知ってください。

  

長文になって小論文、参考になると幸いです。漢方薬に興味を持ち、漢方薬で体調不良を治す方が増えると更に嬉しいです。