鍼灸は芸術である。たくさんのツボで病気を治すのではなくて、一つのツボでいろんな病気を治すこと。

こんにちは。李哲です。

鍼灸を知らない人の感想を見たことあります。

彼(彼女)たちは「鍼をいっぱい打ったほうが効果が高い」と思ったそうです。

 

おそらく、同じ考え方を持っている方が多いでしょう。

私も数年前までは満遍なくツボに鍼をしたけど、勉強をすすめることでだいぶ変わりました。今日は自分の考え方で説明しようと思います。

 


 

先に良くある中国鍼の画像を転載します。

 

▼五十肩の治療なのか、よく分かりません。

これだけの鍼を刺すのもすごいと思います。

 

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/l/li-hari/20181229/20181229203704.jpg

 

▼肩こり、首こり、頭痛の治療でしょうか。

これだけの鍼を刺したら、腰痛・足の痛みまであったら、あと200本くらい追加するでしょう?

 

鍼灸治療画像

 

上記の2枚の鍼灸施術、患者さんの辛い症状が改善できるかも知れません。

ただし、数少ない鍼で同じ効果があるのに、これだけの鍼を刺すのは資源の浪費です。

 

鍼灸師として、どのツボで治ったかも分かりません。

 


 

昔の鍼灸の本には、たくさんのゴロが記載されています。

1個もしくは2~3個のツボで幅広い痛み・不調を治せます。たとえば有名な「四総穴歌」。以下で簡単に説明します。

 

  • 「面口合谷収」
  • 「腰背委中求」
  • 「肚腹三里留」
  • 「頭项尋列缺」

 

『乾坤生意』(明代・朱权 著)*1の「四総穴歌」より引用

 

直訳すると

  • 顔と口の病気は合谷一つで収まる。
  • 腰と背中の症状は委中一つを刺せば良い。
  • お腹の病気は、足三里だけで良い。
  • 頭と首の病気は、列缺を刺す。

  

臨床の例をあげます。

腰と背中がつるように痛い。もしくは重だるい時は委中一つで治せます。腰にハリネズミみたいに、鍼をたくさん刺す必要がありません。

 

下痢、便秘、胃痛、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、食欲不振、腸閉塞…などのお腹のトラブルには、足三里が有効。重症でなければ、ほぼ足三里だけで改善できます。ほかの効能は以下の記事をご参考にしてください。

 

www.li-hari.net

 

古代の鍼灸症例を見ると、基本的に2~3箇のツボで辛い症状を治しています。100本、200本刺すなんてありえない。

 


 

古代の鍼は、縫い針より太いですよ。

いくら効果があるとは言え、縫い針よりも太いのを100本刺すと言ったら、あなたは受け入れますか?多分50本刺したときに、ギブアップするか失神します。

 

現代の鍼はとても細くなり、昔の鍼みたいな強烈な刺激はありません。それでも、まったく無痛とは言えない。

 

鍼治療は基本的に痛いです。

現実にある痛みではなくて、響き。

中国語では「酸痛」(すっぱい痛みと言う)

 

この響きを嫌がって鍼治療を止める方もいました。(女性はそうでもないですが、男性はなぜか怖がりで嫌がっていますね…)

 

1本1本でも響きで大変なのに、100本刺したら拷問ではないか?と私は思います。以下の記事に書いた女性患者さんも、同じ事を言ってました。

 

www.li-hari.net

 


 

少ない鍼で同じ治療効果が出れば、受ける患者さんはストレスが少なくて、鍼灸師としてもどのツボで治ったかが把握できます。

 

ツボの効能が分かれば、さらに無駄な鍼が減るので患者さんは喜ぶはずです。

 

▼以下は私の鍼治療の画像。

刺したのは肺兪、心兪、大ちゅう。(下から上への順番)

肩こり治療のツボは、大ちゅう一つのみです。肺兪と心兪は、睡眠障害を改善するため。

 

まだ鍼の本数が少ないとは言えないけど、なるべく減らすように努力しています。

 

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/l/li-hari/20180911/20180911180954.jpg

  

アメリカの著名な鍼灸師:楊維傑先生には、心に響く言葉がありました。

「鍼灸治療は芸術だ。たくさんのツボで病気を治すのではなくて、一つのツボでいろんな病気を治すこと。」

 

これは私の目標でもあります。

  

*1:『乾坤生意』は明代1406年刻印された総合的な医書。内容は漢方薬、鍼灸、中医学理論など幅広い範囲でまとめた本です。