お腹が氷みたいに冷たいのを漢方薬1ヶ月で著しく改善した例

こんにちは。李哲です。

アメリカの中医師:李宗恩博士*1の漢方薬治療例を翻訳しました。お腹と足が氷みたいに冷たいのを1ヶ月で著しく改善した例です。

 

中国語本文のリンク先は、

幾年來肚子非常寒冷不舒服 – 當張仲景遇上史丹佛

(07/31/2013発表)

 

お腹が氷みたいに冷えるのは漢方薬1ヶ月で著しく改善

 

初診は2013-6-10

患者は49歳の女性、中国人。

 

主訴:ここ数年間、お腹の中が氷みたいに冷たくて、違和感を覚える。西洋医学、中医学の先生に診てもらったけど治っていない。以前は「附子理中湯」を飲んだあと、改善が見られたそうです。

 

ほかの症状は、

  • 呼吸するとき、息まで冷たい。
  • 顔には大きな黒斑がある。
  • 両側のそけい部と腰回りは重だるくて、はっている感じ。
  • 以前は心臓の不調があった。
  • 普段ゲップが出やすい。

 

▼李哲の説明:ゲップが多いのは、漢方薬で簡単に治ります。ほかの中医師の症例があるので、こちらも参考にしてください。

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以下は問診内容です。

寒熱:手足、体とも寒い。

汗:正常、寝汗をかかない。

睡眠:夜11時半に布団に入るけど、すぐ寝つけられなくて、一晩中寝られない時もある。また、途中覚醒があり、尿意で起きる事が多い。起床後は非常に疲れて、たまにはめまいがする。

 

食欲:お腹が空かないけど、食べられる。ヨダレが多くて、よだれが冷たい。

 

便通:1日1~2回、便の量が少ない、形はある。食べる割には便が少ない。

 

尿:尿量が少なくて、尿の勢いがない。

口渇:喉は渇かない。

生理:閉経して2年経っている。以前は3週間に1回生理が来た。当時は血の塊が多かった。

 

▼李哲の説明:尿の勢いがないのは、足ツボ整体でも治せます。ただし前立腺、腎臓、膀胱などの慢性的な症状になっているので、数ヶ月の施術が必要です。以下の記事に書いたおじいちゃんは、足ツボ整体でチョロチョロ尿が勢いよく出るようになりました。参考になると幸いです。

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脈診:遅い、少し無力。

舌診:舌苔は白で薄い、舌の真ん中あたりに裂けた溝がある。患者さんが「附子理中湯」を飲む前は、舌苔だもっと白くて分厚かったそうです。

 

眼診:腎臓の反射区は正常、肝臓は大きすぎ。心臓の反射区は平らで薄い。

 

触診:肝臓、脾臓の腹診は正常。三陰交穴、血海穴は圧痛なし。

 

処方箋:生のトリカブト(生附子) 乾姜 炙甘草 加工したトリカブト(炮附子) 生姜 人参 白朮 茯苓 蜀椒 細辛 烏薬 呉茱萸湯 川芎

 

▼李哲の説明:「附子理中湯(丸)」は胃腸を温める代表的な漢方薬。以下の記事にでも処方されてあるので、どうぞ参考にしてください。

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2013ー6ー20

患者さんの報告:漢方薬を飲んだあと、ほてりがあった。お腹は少し熱くなったけど、下腹部はまだ冷たい。右足くるぶしから足指までは寒い。左腰・左膝は重だるくて乳房も寒く感じる。

 

睡眠:夜中2~3時は、両足のムズムズ違和感で眠れない。

脉診:平、少し力強くなった。

舌診:舌苔は白、舌の前は少し腫れて大きい。

 

処方箋:既製品の附子理中湯+酸棗仁湯+大建中湯。

 

▼李哲の説明:足がムズムズする違和感で寝られないのは、「ムズムズ症候群」の一つです。以前、鍼で背中のムズムズを治した例があるので、参考にしてください。

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2013-7-2

患者さんの報告:たくさん改善が見られた。お腹は熱くなり、腰が抜けそうな感じは前より良い。左手と右足だけ、比較的に力がない。

 

便通:正常。

脉診:少し緩、弱、尺脈はある。

舌診:湿気が見える、舌苔はない、舌の前は少し腫れて大きい。

 

処方箋:加工したトリカブト(炮附子) 人参 乾姜 炙甘草 白朮 蜀椒 茯苓 細辛 桂枝 遠志 柴胡 玉金 川芎 竜骨 牡蛎 なつめ 生姜

 

竜骨(りゅうこつ):中医学の言葉でいうと、作用は「収浮陽」。浮いた陽気を戻す大事な生薬

竜骨(りゅうこつ):中医学の言葉でいうと、作用は「収浮陽」。浮いた陽気を戻す大事な生薬

 

2013-7-5

処方箋:既製品の附子理中湯+酸棗仁湯+大建中湯。

 

2013-7-15

患者さんの報告:

お腹、両足とも暖かくなってきた。

たまに寒く感じるけど、前よりずいぶん良い。

 

▼李哲の説明:以下は「酸棗仁湯」のもう一つの使用例。肺がんの不眠症を治す時に処方されています。

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李哲の解釈と説明

 

李宗恩博士の処方に関する説明

 

上記の処方箋には、いろんな処方箋の影が見えます。

四逆湯、呉茱萸湯、附子理中湯、大建中湯など。

 

四逆湯の構成:

  • 乾姜
  • 炙甘草
  • 生のトリカブト

 

呉茱萸湯の構成:

  • 呉茱萸(ゴシュユ)
  • 人參( ニンジン)
  • 大棗(タイソウ)
  • 生姜(ショウキョウ)

 

附子理中湯の構成

  • 附子(ブシ)
  • 人参(ニンジン)
  • 白朮(ビャクジュツ)
  • 乾姜(カンキョウ)
  • 甘草(カンゾウ)

 

大建中湯の構成:

  • 人参(ニンジン)
  • 山椒(サンショウ)
  • 乾姜(カンキョウ)
  • 膠飴(コウイ)

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【▲人参:野生の人参は非常に高価な生薬です。しかし、気を補う作用が強くて、危篤な患者さんも救えるパワーがあります。】

 

1回目の処方箋はすごいです。

生のトリカブト(生附子)、乾姜 、炙甘草 、加工したトリカブト(炮附子) 生姜 人参 白朮 茯苓 蜀椒 、細辛、 烏薬、 呉茱萸、 川芎

 

下線を引いた生薬は全部熱々のもの。

恐ろしい強烈な「爆弾」です。

 

しかし、飲んだ後にほてる反応が出て、予想した効果が出ない時は、何かが間違ったことを示します。幸いにも、患者の睡眠に関する報告があったので、処方箋を正しい方向に導くことができました。

 

睡眠を良くする酸棗仁湯と胃腸を温める大建中湯+附子理中湯。10日飲んだだけで著しく改善されたのです。

 

当院では大建中湯を飲んだ患者さんは、一人いました。腸閉塞の腹痛で、病院の先生に処方されたそうですが、残念ながら効果はなかったです。これは大建中湯が効かないのではなくて、日本の粉薬は成分が薄いから効かないだけです。腸閉塞の患者の症例は、以下をご覧ください。

 

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体調不良を治すとき、睡眠の質を良くするのは大事

 

2回目の処方は、1回目のより穏やかな漢方薬だと言えます。なぜ穏やかなのに、逆に効果が良かったのか?これは研究する必要があります。

 

私が思うのは、睡眠の質が改善されたのが大きな違い。温める生薬は、もちろん必要だけど、何よりも睡眠の質を確保するのが最重要のこと

 

酸棗仁湯は睡眠を改善しますので、大事な役割を担ったと言えるでしょう。 

 

睡眠の質に関して、余談話があります。

鍼を刺したあと、僅かの15分~20分寝ても、スッキリ感が違う。以下の記事、参考になると幸いです。

 

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胃腸が冷えるとお腹が冷たく感じて、手足も冷えてくる

大建中湯。

附子理中湯。

2つとも胃腸を温める処方箋として有名です。

同時に2つを使ったのは、あまりにもお腹の冷えが強いからだと思います。

 

臓器の分布を見ると、お腹はほとんど胃腸で埋もれています。胃腸が冷えていると、人間もお腹が冷える自覚症状が出ます。胃腸が熱すぎると、お腹もアツアツになるけど、このような病気は100人に1人もいません。お腹が辛くなるのは、ほとんど冷えからくる不調。

 


 

また、中医学の理論では、手足の温度と脾胃が密接に関連。以下、古文を引用して説明します。

四肢皆禀气于胃,而不得至经,必因于脾,乃得禀也。」

出典先:『素問・太陰陽明論』

四肢(手足)の気は胃が源。そして、胃のエネルギーを四肢まで運ぶのが脾の役割だと書いてあります。つまり、脾胃が丈夫であれば手足は温かい。逆に言うと、脾胃が弱いと手足の冷え性になります

 

以下は冷え性を治した一つの症例、参考になると幸いです。

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五臓六腑の気、陰陽などを話すと、わけわからなくなるかも知れません。一つ現実によくあるもので説明します。

 

寒い季節、お腹が空いて、あなたは手が冷たくなりました。温かいご飯を食べて、スープを飲んだ瞬間から、手が暖かくなるはず。胃袋に食べ物が入ってエネルギーが生まれたから、手足はすぐ暖かくなるのです。

 

ご飯を食べたあと、体・おでこに汗をかくのも、胃腸が温まり体中にエネルギーが満ちてきたからです。これは異常ではないので、気にする必要がありません。動いてもないのに汗をかく、食べてもないのに汗をかくのは異常。漢方薬もしくは鍼灸で、みんな治せます。以下は一つの漢方薬症例、参考にしてください。

 

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胃腸が話があったので、番外編として触れようと思います。

中医学は目に見えない「気」よ「陰陽」ばかり話して、エビデンスに欠けていると言われがちですが、これはあなたが中医学聖典『黄帝内経』を読んでないからです。

 

『黄帝内経』には「気血」を論じたも多かったけど、高精度の解剖学知識も述べてあります。

 

たとえば、人間は何日食べないと死ぬのか?

中医学理論の根拠は胃腸の容積(大きさ)で、何日生き延びるかが計算されています

 

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追記:最近、諸事情で忙しくて記事を書く時間が減っています。施術の合間を縫いて、少しずつ記事を完成しますので、しばらくお待ち下さい。

 

*1:李宗恩博士の紹介は、オススメの漢方医・鍼灸医(海外) をご覧ください。