こんにちは。李哲です。
今日はニハイシャ先生の弟子:張孟超医師が書いた治療例を翻訳しました。全文が長いので上下2回に分けました。
どんな処方で食道がんが治ったのか。
その治療過程と私の感想を書きました。
中国語翻訳のリンク先は、
http://www.hantang-nihaisha.com/chinese/ch_Articles/studentcase10.htm
翻訳文
2008年12月6日。
C.B.C。男性。69歳。
身長は普通、体型はガッチリ。
若い時に厨房で体力仕事をしたから、筋肉が多い方です。
患者さんの病歴の陳述:
前立腺肥大症。2005年にバイパス手術して、その後は血圧を下げる薬、血をサラサラにする薬をずっと飲んできた。
2008年、脳卒中になり右半身のマヒ【ニハイシャ先生が話しました→西洋薬は脳卒中の予防にならない。逆に脳卒中を引き起こす】
今は回復が良いけど、右手で字がかけない。
たまには話せない。
最近になって、飲み込むのが難しくなり、硬いものを食べると喉が詰まる。そして、胸が苦しくて痛くなるので、液体の物しか食べられない。
西洋医学の病院はバリウム検査をして、食道の噴門部に近いところに腫瘍が見つかりました。基本的に悪性腫瘍だと診断して、続けての生検を要求しました。
患者さんの娘さんはすでに予約をとり、明日生検をするそうです。
娘さんは涙目になって私に質問しました。
「もし悪性だったら、まだ治すチャンスはありますか?」
私:「手術、抗がん剤、放射線をしてなければ、チャンスはあります。【ニハイシャ先生が話した3つをやらなければ】
あなたのお父さんに1週間の時間をください。もし、飲み込むのが良くならない場合、私が師匠のところに紹介します。」
娘さんは少し迷ってから話しました。
「家族の意見を押し切って、生検を止める方向に行きます。」
【患者さんは子供が多くて、みんな意見がバラバラ。誰が決定したら、最後まで責任を取るしかない。このような劇場は、毎日起きています。本当に難しい!】
患者さんのほかの症状:
食欲不振。胃酸逆流。お腹は空かない。夜中2時には必ず目が覚めて眠れない。手足は冷たくない。汗をかかない。小便の色は薄い黄色。頻尿、尿が出きってない感じがする。
喉が渇くのは普通。冷たい物を飲みたがる。
便通は毎日2回、量が少なめで形がある。少し柔らかめで、赤いねばっとした物が出る。
脈診:右寸、関部と左の関部は豆みたいに短くてとても硬い。強く押してみても、硬さが減らない。
腹診:
胸と脇腹が張れてつらい。みぞおちあたりは硬い。
へそ周りは全部圧痛があって、たくさんの硬いものが触れる。大きさはみんな違う。
触ってみると、みぞおちあたりの皮膚は冷たくて、臍下は温かい。中庭穴あたりは押すとすごい痛がる(ちょうど腫瘍があるところ)
【ニハイシャの言葉→ツボは診断にも使えるし、治療にも使います。】
舌診:舌苔は薄い黄色。質は暗い。
診断:
食道がん(腫瘍)。
まだ生検など破壊的な検査をしてないので、チャンスを逃すとダメ。ニハイシャ先生から教わったやり方に従いました。
処方箋1:
『千金方』の紫丸(約0.4g)。朝の空腹時に飲む。ダメだったら、もう1粒を飲む。
注:紫丸は張仲景の『走馬湯』をアレンジしたもの。(皮と油を抜いた巴豆(はず)1、杏仁2、代赭石1)はちみつと一緒に練って、豆サイズの丸薬にする。
注:昔から漢方医たちは、代赭石は収める質があり、巴豆(はず)の強すぎる下剤作用を和らぐと言ってますが、まだ議論が必要です。
臨床で見ると、ニハイシャ先生の話が正しい。
代赭石は腫瘍を追い出す特徴があります。
注:喉から肛門まで、すべての消化系の腫瘍。悪性であろう、良性であろう、関係なしで走馬湯・紫丸・三物備急丸(さんもつびきゅうがん)が使えます。
ただし、ニハイシャ先生の忠告があります。
すでに手術・抗がん剤した患者さんには、慎重に使うべき。
処方箋2:
旋覆花代赭石湯。(代赭石は大量に30gを使用)
黄土湯(灶心土は大量に50gを使用)
生のトリカブト(附子)、柴胡。
3日分。
そして患者さんに伝えました。
「朝は空腹時に紫丸を飲むと、激しい下痢になるはず。
下痢が止まったら、処方箋2を飲んでください。1日2回飲みます。万が一、下痢が止まらなかったら、氷水を1杯飲めば下痢が止まります。」
2008年n12月13日。
患者の陳述:
1日目の紫丸を飲んでから、5分も経たないうちに下痢が来た。ズボンを降ろす時間もなく、トイレに行きながら用を出してしまった。前後に4回くらい大便。
翌日には教訓があるから、先にトイレに座ってから飲んだ。
2日目からは2~3回便通があり、体力は減ってない。睡眠は良くなり、夜中のトイレ以外には目が覚めない。
手足は冷たいなってないし、大便から赤いねばっとしたものが出るのも減った。
食べ物が詰まる感じは半分消えて、腹診の時にみたら、腫瘍はもう触れません。圧痛もなくなりました。
指での打診では、みぞおちあたりはまだ鼓音。胃の中に空気が溜まっているのが分かる。
処方箋は変えずに、陳皮を追加しました。
代赭石は20gに減らし、灶心土は30gに減量。
今回は7日分を処方。
↑↑↑ 【陳皮(ちんぴ)の画像】
2008年12月15日。
病状が変わりました。
患者さんが言うのは、朝飲んでから夕方になると吐いてしまう。手足は冷たい。黒い便が出る。一日中お腹がはる感じ。完全に食欲がなくなって、とてもつらい。
患者さんは煎じ薬のせいだと思い、煎じ薬を止めて紫丸だけ飲んでいるそうです。
おかしいと思って、詳しく話を聞いて分かりました。
患者さんは紫丸がとても効くのえ、自ら1粒を2粒に変えたのです。
【本当にいろんな、天才的な患者さんがいますわ!】
患者さんの話を聞いて、理由が分かりました。
こんな猛烈な薬を飲みすぎたら、胃腸は壊れます。
腹診で分かったのは、お腹がはれてカエルみたい。打診音は全部鼓音。
私はすぐ患者さんに話しました。
「紫丸はもう飲まないでください。処方箋を変えます。」
前回の処方箋2にプラス、厚朴生姜半夏甘草人参湯。平胃散。少量の木香。同時に訶子(かし)を大量に使用。
【お腹がはる患者さんに、ニハイシャ先生はこの生薬を必ず使う。お腹にガスが溜まるのを治す時、まさに神の薬】
2009年1月3日。
食欲は完全に戻って、お腹のはりも消えました。
大便は形がある便で、黒い便は出なくなりました。赤いねばっとした物はまだ出ています。
食道の詰まる感じは減りつつある。
~続く~
李哲の感想:
飲み込み困難。食べると食道あたりが痛い。これは食道がんによくある症状です。
(もちろん、ほかの症状も参照しないと、食道がんだと判断できない)
私のおばあちゃんも、少し前に似ている症状が出たけど、漢方で治って食事に支障が出るほどではなくなりました。
食道がんは、いきなりなるものではない。その源は、胃酸逆流。西洋医学でいう逆流性食道炎。
長年の胃酸の腐食で、食道の細胞が変性し癌細胞になります。
胃酸逆流の初期症状は胃痛。気持ち悪い。胃がムカムカする。胸焼けがする。胃酸が喉まで上がってきて声が枯れるなど。
初期症状がある時に治しておけば、あとのいわゆる食道がんにもなりません。
(当院でコーヒー、チョコレート、アイスクリーム、ケーキ、お菓子など止めさせるのは、この胃酸逆流を根絶させる為です)
残念ながら、西洋医学では胃酸逆流の原因が分かってない。制酸剤を出すだけじゃ、もとの解決ができないし再発も防げません。
張孟超先生の処方箋を見ると、強烈な処方ばかりです。
巴豆、生のトリカブト。この2つだけでも日本では買えません。毒性が強すぎると大騒ぎになるから。
日本ではトリカブト殺人事件があって、トリカブトはみんなビビるものらしいですが、私は笑うしかない。
西洋医学の抗がん剤、オピオイド鎮痛剤は毒性がないですか?
『神農本草経』では生薬を上・中・下品に分けています。下品の生薬は毒性が強い生薬で、重症を治す時に使うやつ。
『神農本草経』では、「下品に属する生薬は、一般の病気に使ってはいけない」とはっきり書いてあるのに、説明書を守らないで一般人に使って事故が起きたときは、トリカブトのせいだと言いますね。
これは、わざとした悪意ある差別だとしか言えない!
中医学には「毒をもって毒を制する」理論があります。
毒素の塊が大きすぎる場合、一般的な生薬では解決できないから、毒性が強い生薬を使う。
上記の患者さんの症状、ここまでひどくなると、漢方薬しか治療できないかも知れません。
こんなひどい食道がんは、私は鍼治療したことがないです。
万が一治療に来た人がいたら、以下のツボが役に立つと思います。
方向性としては、胃腸を強くして心臓を強化。あとは、つまっている食道の所を流しす。ツボは天突穴、中脘、巨闕、関元、列缺、照海、膻中、公孫、内関…など選べられます。
いずれも食道を通っている任脈を中心に、溶かす・流すという戦略。たとえ食道がんを治せなくても、患者さんの生活の質を上げることはできる。