何も食べないと何日で死ぬ?『黄帝内経』の答えから見る中医学の解剖学

【※本記事は2019-06-03更新しました】

 

「中医学には解剖学がない」と思うのは間違い

こんにちは。李哲です。

今日は中医学の雑談。

 

人体解剖学だと、皆さんはすぐ西洋医学を思い出すでしょう。

「西洋医学=人体解剖」のイメージ。

 

「中医学に解剖学がある???中医学には気・経絡・陰陽など、わけわからん抽象的な名詞だけ。中医学には解剖学がない!」と思うかも知れません。

 

実は、これは中医学に対する誤解です。 

何も食べないと何日で死ぬ?中医学の『黄帝内経』の答え

 

一つの例をあげます。

「何も食べないと何日で死ぬのか?」の質問に対して、『黄帝内経』には解剖学に関する面白い答えがありました。

 

以下は『黄帝内経・平人絶谷論第三十二』より

 

黄帝曰:愿闻人之不食,七日而死,何也?

伯高曰:臣请言其故。

胃大一尺五寸,径五寸,长二尺六寸,横屈受水谷三斗五升,其中之谷,常留二斗,水一斗五升而满,上焦泄气,出其精微,愫悍滑疾,下焦下溉诸肠。

小肠大二寸半,径八分分之少半,长三丈二尺,受谷二斗四升,水六升三合合之大半。

回肠大四寸,径一寸寸之少半,长二丈一尺,受谷一斗,水七升半。

广肠大八寸,径二寸寸之大半,长二尺八寸,受谷九升三合八分合之一。

肠胃之长,凡五丈八尺四寸,受水谷九斗二升一合合之大半,此肠胃所受水谷之数也。

平人则不然,胃满则肠虚,肠满则胃虚,更虚更满,故气得上下,五脏安定,血脉和利,精神乃居,故神者,水谷之精气也。

 

故肠胃之中,当留谷二斗,水一斗五升。

故平人日再后,后二升半,一日中五升,七日五七三斗五升,而留水谷尽矣。

 

故平人不食饮七日而死者,水谷精气津液皆尽故也。

  

文章には各臓器の長さ、太さ、重量、容積など記載しています。

長さの単位は現代と違いますが、比例関係から見ると、現代の解剖学とほぼ同じ。

 

もっとも面白いのは、黄帝の質問:「なぜ人は1週間食べないと死ぬのか?」

 

伯高の答えを直訳すると、健康な人は胃腸に2斗の食べ物と1斗5升の水が貯蓄されている。つまり、常に3斗5升の栄養素があります。

 

健康な人は1日2回、便が出る。1回の出る量が2升半、1日だと5升が便で出ます。5升✕7=35升=3斗5升。だから、1週間後には胃腸の栄養素がなくなるので、人は死ぬ。

 

これは一般的な生理学で、異例の時もあります。遭難10日~1ヶ月、食べ物がない状態で生きている人がいます。個人差があるのは体質・精神状態が原因です。

 

精神状態が体に及ぶ影響は、以下の記事でも討論しました。

どうぞご参考に。

 

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古代の中医学にも解剖学がある原因

 

古代の中医学は、なんで解剖学に詳しいのか?

考えられるのは、古代の処刑が多かったから、こういう具体的な長さ・容積・太さなどのデータが残っている。

 

ヨーロッパの解剖学の歴史を見ても、似ているのがありますね。当時は死体の解剖が許されてないので、こっそり死体を墓から盗んで研究した人もいると、日本の鍼灸専門学校の授業で聞きました。

 

現代医学は解剖学からスタートしたけど、残念ながら解剖では経絡の存在が分からない。中医学は経絡の存在を知っていながら、解剖学のデータもあります。

中医学が研究するのは、目に見える解剖学ではなくて、見えない「気」

 

中医学は昔から解剖学があったのに、なぜ西洋医学みたいに細かく神経・筋肉・血管などをもっと研究してなかったのか?以下は私の推測です。

 

体の主役は見えない「気」で、見える臓器は「脇役」

 

病気治療で解剖学は、さほど意味がない

 

何故かと言うと、体の働きを牽引している「気」と「経絡」が主役で、目に見える各臓器は脇役だからです。

 

中医学が研究するのは主役。

西洋医学が研究しているのは脇役です。しかも脇役すら分かってない。だから、虫垂・扁桃腺はなくても大丈夫だという笑い話があります。

 

本当に体には必要がないゴミでしょうか?

以下の記事では詳しく討論しました。

 

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中医学の有名な言葉がありますが、『気為血之帅、気行則血行』。気は血を引っ張って行く意味です。

 

大昔から中医学は知っていました。

心臓のポンプの力だけでは、血液がすごいスピードで全身を回らない。必ず前で気が引っ張っているから回れる。そして、気が血管の外側を締めているから、血液がすごいスピードで回っても飛び出さない。

 

経絡のスピードは、果たして秒速何kmあるだろう?

以下の記事で分析しました。

参考になると幸いです。

 

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中医学では解剖学を完全に捨ててはない

 

注意すべきなのは、中医学は解剖学を否定していません。

心臓の経絡(心経)。膀胱の経絡(膀胱経)…各臓器に対して経絡は、ちゃんとついています。

 

胃は食べ物を消化して腸は吸収・肺は呼吸を司る・膀胱は尿を貯蔵・胆嚢は胆汁を分泌して消化を助けるなどは、現代医学の理論と同じです。

中医学の臓器の定義は、西洋医学よりも広い

 

中医学と西洋医学の違いは、中医学でいう五臓六腑は本来の臓器とほかの所まで入れて、定義をしている。つまり、西洋医学でいう臓器よりも範囲が広い。

 

一つの例をあげると、中医学でいう脾臓は、西洋医学でいう脾臓とすい臓、両方の臓器と関連する内分泌系も入れています。

 

手術が必要な外科では、神経・筋肉など細かく分類するのは有利だと思います。しかし、内蔵の病気に関しては、外科のやり方は合わない。

 

外科の手術で内科の病気を治そうとすると、必ずたくさんの死人が出る。これは以前の翻訳文でも触れています。

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li-hari.hatenablog.com

 

人間の体は、個人作戦ではなくて、幅広い範囲で臓器と内分泌系・リンパ系・神経系統などが協力して働いています。単なる臓器の働きを見るだけでは、全体を失う。

 

病気治療では細かく見るのではなく、広範囲でものを見る中医学のほうが有利です。

 

臨床での結果を見ても分かりますが、内科の病気治療では中医学が王道です。西洋医学よりも副作用がなくて効果が良い。

 

共同作業で病気を治すのは、漢方薬の特徴でもあります。

以下は、葛根湯の共同作業の仕組みを詳しく分析した記事です。どうぞご参考に。

 

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まとめ

なぜ人間は何も食べない、飲まない状態で7日間生きていられるか、その仕組みが分かったでしょうか。

 

これは神さまが人間を作ったとき、念のためにくれた災難に備えるためのプレゼントだと思います。

 

『黄帝内経』には面白い記載が多いので、今後時間を作って翻訳しようと思います。