尿失禁を改善した鍼灸治療例
【※本記事は2019-03-30更新しました】
こんにちは。李哲です。
今日は尿失禁(尿もれ)以外に、頻尿、尿が出にくいなどの症状を改善した鍼灸治療例。
患者の症状と中医学の分析
男性、51歳。
主訴は以下のとおり。
- 頻尿
- 尿の出が悪い
- トイレが我慢できない、尿失禁(尿漏れする)
- 尿がたまると痛い
- おしりが張る
- 左腰が痛い(夕方になると)
以下は問診で分かった内容です。
- 寝付きは良いが、夜中にトイレに1~2回行く
- 小便の色は透明
- 手足は寒い
- 朝たちはない
頻尿なのに出が悪い症状は半年前からあって、2種類の病院の薬を飲んだそうです。
一つは尿が出ないようにする薬、もう一つは尿を出す薬。
小学生の時に急性腎炎で入院し、2ヶ月毎日点滴して治した。
冷えは50過ぎてから気づいた。
病院の検査では特に腫れてないので、前立腺がんの疑いはない。膀胱結石、腎臓結石もないと言われたそうです。
運動は休日に野球をするくらい。
仕事で週3回ほどお酒を飲んでいる。
彼の症状は、ぱっと聞いた限り矛盾があります。
尿が漏れて勝手に出るのに、トイレに行くとまた出づらい。
普通は尿閉、若しくは尿崩症だけど、彼は同時に真逆の2つを兼ねているのです。今まで診たことがないタイプです。
私の判断は、腎臓と膀胱の陽気が足りなくて、尿を貯める事も勢い良く出すこともできない。
最初は足つぼ整体を3~4回受けたけど、1回目だけすごく効果があり、もう治ったように思ったそうです。残念ながらその後はあまり変化なし。
足つぼ整体を止めて8ヶ月後に、初めて鍼に来ました。
鍼治療してからの変化
長い間(8ヶ月分)の記録になります。
子目次をつけてますので、読みやすくなると幸いです。
尿がもれないように考えるだけで精いっぱい
2016年12月9日。
1回目の鍼。
彼が言うのは、尿の切れが悪い、頻尿、尿が我慢できない、尿失禁(尿が漏れる)。
尿がもれないように考えるだけで精いっぱいで、他の辛いところは一切分からない状態。
漢方薬局で猪苓湯(ちょれいとう)をもらって5ヶ月飲んだけど、結果は出てない。
最初に刺したツボは関元、中極、気海穴、巨闕、復溜、陰陵泉穴、三陰交、腎関(これは董氏奇穴)。
いずれも尿をもっと出すように、腎機能.膀胱の機能を強化するためのツボです。
帰りに中極穴にせんねん灸(生姜入りタイプ)を9個やることを勧めました。
彼が言うのは、「鍼が終わったあと、お腹が少し暖かくなった。」
2016年12月13日。
尿がもれるのが我慢できなくて、オムツをつけないと仕事の会議にも参加できない。我慢してその後トイレに行くと、今度は尿が出ない。
お灸をやっているけど、効果がまだ分からないそうです。
今日はもう少しツボを増やして、強化することを狙いました。
2016年12月23日。
昨日は5時間寝て、1回も起きなかった。
ただし、朝は尿意で目が覚めるけど、トイレに行くとあまり出ない。
昼の頻尿は減っている感じ。
彼は前よりは進歩していると言ってました。
12月末までは、毎週1回のペースで鍼治療を受けました。
ある程度尿が我慢できて、今はオムツをつけてない
2017年1月13日。
彼の報告:
正月休みで里帰りのときは調子が良かったけど、東京に戻ってきたら悪くなった。
また頻尿と尿が我慢できない。
1時間くらい尿を我慢すると、今度は大便まで出そうな感じ。
夜中のトイレも2~3回に戻った。
2017年1月17日。
彼の報告:
少し良くなった気がする。
前より尿が貯められる(前は100mlくらい)。
尿の勢いはまだない。
2017年1月28日。
彼の報告:
昨日はダメだったけど、今日の尿は大丈夫。
1月に来たのは6回。
まだ一進一退の状況です。
2017年2月2日。
彼の報告:
前回の金曜日に鍼をして、土日と月曜日は治ったように快適だった。火曜日、水曜日にはまた戻って、我慢できない。尿が貯まると膀胱が痛い。尿が出ても100mlくらい。
鍼したあとは黄色い尿が出る。
週2~3回の針が良いと勧めました。
2017年2月7日。
彼の報告:
大幅な進歩はないけど、少しずつよくなっている。
特に鍼した直後は、尿が大量に勢い良く出る。その後は勢いが徐々になくなるそうです。
ある程度尿が我慢できるので、今はパッドをつけてない。
2017年2月11日。
前よりは尿が貯まると思うけど、溜まると我慢できない。尿が漏れる。尿の勢いは悪い。
今までの治療過程を見ると、最初は頻尿と尿が漏れる。
今は尿が漏れるだけ顕著。
頻尿はある程度抑えられている。
2017年2月16日。
少し尿が貯まるようになったけど、やはりすぐ排尿したくなる。排尿しないと膀胱が痛い。尿が出るとスッキリ。
2017年2月25日。
風邪が1週間以上続いているので、三叉三.天突穴など追加。
2月に来たのは8回。
2017年3月2日。
前回の鍼したあと、逆に頻尿が顕著になった。
昨日からやっと落ち着いている。
なぜこんな逆効果が出るか、私も経験したことがないので理由が分からない。
トイレの事で精一杯のことはなくなった
2017年3月4日。
彼の報告:
八味地黄丸を飲んでから、尿のコントロールがだいぶ良い。
ただし尿が溜まると、膀胱が痛くなり尿が出ると楽。
年を取ったせいなのか、最近は寒がりになったそうです。
2日前に寝違いしたのか、今日は首が痛い。
追加したツボで、首痛は帰る時はだいぶ良くなりました。
2017年3月7日。
彼の報告:
鍼したあとの2日間は、完治したように尿が溜まるし、尿の勢い良かったけど、3日目は1時間に1回トイレに行かないとダメ。
2017年3月29日。
彼の報告:
夜のトイレに行くのは2回。わりとたくさん出る、200mlくらい。昼はそんなに出ない。でも、昼は前よりだいぶ我慢ができて、トイレの事で頭いっぱいの状況はなくなった。
3月に来たのは10回。
初めて朝たちみたいなものが出てきた
2017年4月5日。
彼の報告:
夜中は尿が溜まって出やすいけど、昼は溜まると痛い。
溜まるのは良いけど、腹圧をかけても出づらいそうです。
以前はちょっと寒がりだったけど、今は完全に寒がり。
今日は初めて、朝たちみたいなものができた。
2017年4月12日。
彼の報告:
夕方から尿が出やすい、出すとスッキリ。以前は夜だけ尿が順調に出た。
昼は尿が出づらく、すごく力を入れないとダメ。
尿の我慢はだいぶできるので、昼は会社で仕事ができる。
2017年4月19日。
彼の報告:
昼は尿が溜まるよになった、溜まってもそんなに痛くない。
夜中はトイレに行くのは2回。
昼の尿の勢いは悪くて、チョロチョロ出る。
お酒で尿の出が悪化
2017年4月26日。
彼の報告:
前回の土曜日の鍼したあと、日曜日と月曜日はすごく良かったそうです。
夜も1回だけのトイレで、よく眠れた。
今日はダメ。
原因は彼も知ってました。
昨日どうしても宴会があって、お酒を飲んできたら、尿が貯まると膀胱が痛くなる。
GWに宴会が続くので、悪くなるのではないか?と彼はすごく心配してました。
鍼治療の時、お酒は禁止ですが、彼みたいにどうしても飲まないといけない時は、私も頭痛いです。お酒で確実に悪化するから。
仕方がないので、私は彼にお灸をたくさんすることを勧めました。鍼ができなかったら、お灸でなんとか補う。
4月に受けた鍼は9回。
2017年5月13日。
彼の報告:
GWに宴会が続いたけど、思ったほど悪くなってない。
最初飲んだ日は、頻尿と尿が貯まると痛かったけど、けっこうな量を溜めることができていました。
2017年5月31日。
彼の報告:
一進一退の状況。
悪い時は1時間に1回トイレに行く。
「尿が貯まると痛い時と痛くない時があるのは、何なんですかね?」と彼は嘆いてました。「膀胱の壁の不安定が原因」だと教えました。
2017年6月3日。
彼の報告:
天気が暑いせいか、あまりトイレに行かなくても 済む。
夜はやはりトイレで目が覚める。
膀胱に溜まって痛くなるので起きるそうです。
尿の勢いが少ない、チョロチョロ出ている。
お酒のせいもあって、状況は一進一退
2017年6月7日。
彼の報告:
昨日少しお酒を飲んだら、今日の尿は1時間に1回まで増えた。
量は150~200mlは出ている。
以前から冷え症があったけど、最近は特に肌寒く感じる。
2017年6月9日。
彼の報告:
特に変化なし。
夜は2~3回トイレで目が覚める。
昼は尿が溜まるとすぐトイレに行きたくなる。
2017年6月14日。
彼の報告:
前回の鍼したあと、日と月は治ったように調子良かった。昼は3~4時間に1回トイレに行く。夜は2回目が覚める。夜の量は以前ほど出てない。
昨日お酒を飲んできたら、今日はまた1時間に1回のトイレ。
「無理して我慢すると、大便まで漏れそうです」と言ってました。
2017年6月17日。
彼の報告:
特に変化なし。
ただし、夜の量は150~200mlはある。
2017年6月21日。
彼の報告:
土日は治ったと思うくらい良かった。
しかし昨日お酒を飲んだら、今日また調子が悪い。
尿が我慢できない。
尿を我慢して、その後に行くと今度は尿が出なくて膀胱が痛い。
あまり尿を我慢すると、大便が漏れそう。
今日は会社で会議があったけど、トイレを我慢するのがとてもつらかった。
2017年6月30日。
彼の報告:
夜のトイレは2~3回。
出る量が少ない。
昼は4~5時間大丈夫な時もあるし、1時間で1回トイレに行きたい時がある。
我慢すると膀胱が痛い時がある。
6月で鍼に来たのは、9回。
だいぶ良くなっているけど、完璧には治ってない
2017年7月12日。
彼が言うのは、「10日以上鍼に通ってないけど、尿は安定している感じです。」
夜のトイレは2回で量が少ない。
昼の尿の勢いが足りない。
あまりいきむと大便が出そう。
2017年7月19日。
彼が言うのは、最近は一番調子が良いかも知れない。
昼はトイレに駆け込まなくても済む時が多い。
夜はやはり2回目が覚める。
トイレに行きたくて目が覚めるのではなく、自然に目が覚める感じ。
「尿の調子はまあまあ良いけど、朝たちがないのが気になる」と言ってました。
ここに来る前は、朝たちなんか考えた事もなかったそうです。
2017年7月25日。
彼の報告:
尿はまあまあ我慢できて、1回の量は200ml以上はある。
尿が溜まると痛いのもない。
勢いはまだ少ない。
尿が細く長く出る感じ。
立ち上がる時のふらつきもなくなった
2017年7月27日。
彼の報告:
今日は立ち上がる時とか、狭い所を歩く時ふらつく。
尿は我慢できる。会社では普通に仕事ができたけど、尿が溜まると少し痛い。
今日は針が終わって、「いつもの足のだるさもないし、立ち上がる時のふらつきもなくなった」と言ってました。
ちなみに、ふらつくのを治す為に鍼を追加したのは、肘の曲池だけ。
肩が上がらないのは1回で治った
2017年8月2日。
彼の報告:
夜のトイレは1~2回。
習慣になったのか、1回行くと安心してまたすぐ寝れる。
尿の勢いが足りない。
昼は会社で1.5時間に1回トイレに行くそうです。
彼は「この頻度だと多いのかな?」と言ってましたが、私はこの間隔なら心配なくてい良いと教えました。
彼は尿の調子以外に、今日は左肩が上がらないと言ってました。以前から気になったけど、今日は特に上がらない。
うつ伏せのときに、右の中渚.曲池.後渓穴を追加。
15分後に仰向けになった時、すでにだいぶ上がるようになりました。
その後は腎関(董氏奇穴)を刺して、回しながら左肩を回してもらう。
鍼が終わってお茶を飲んでいる時、彼が喜んで言うのは「左肩はほとんど良くなりました。少しだけ残っているけど、普段の痛みと全然違います。」
今日で回数券の10回目が終わったので、いちおう卒業してしばらく様子を見る事にしました。
まとめ
2016年12月から2017年7月末まで、計8ヶ月。
かなり長い治療期間でした。
●最初の尿が我慢できなくて、オムツを付ける。
鍼治療してから、オムツは要らなくなり、尿が我慢できるようになりました。
●尿が出ない症状から、尿も出るけどまだ勢いは少ない。
前よりだいぶ良いですが、正直、彼は完璧に治ってないです。
例えば朝たちは戻ってない、夜中は目が覚める。
彼が最初、病院で使った西洋薬がダメージが大きかったのか、放置した時間が長かったのか、時間をかけて治療したけど完治までは至りませんでした。
私の腕不足もあると思うので、もっと勉強して同じ症状の方が来た時には、徹底的に解決したいです。
記事として発表するかどうか迷いましたが、皆さんの参考になればと思って書きました。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます。