午後になると熱が上がり、大汗をかく男性は12日分の「桂枝湯」で治った。

【※本記事は2021-05-15更新しました】

午後になると熱が上がり、大汗をかく原因は?治療法は?が分かる漢方薬症例。決まった時間帯に体調不良になるのは経絡の問題なので、鍼灸の効果がテキメンです。

こんにちは。李哲です。

だいぶ寒くなりましたね。皆さんは防寒対策しっかりとっていますか?

 

手足が冷える方は、普段の飲み物として黒糖生姜湯がオススメです。冷え性にはとても効果的。詳細内容は以下をご覧ください。

 

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昨日の朝出勤する時、たまたま光線の具合が良かったのを見つけて、雨の中で止まってスマホで撮りました。風で紅葉が揺れているから、なかなか焦点が合わなかったけど、奇跡的に止まった瞬間があったのでパシャ。スマホはこんな時に便利ですね。

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紅葉についてる水滴がきれい!

雑談はおいといて、本題に入ります。

今日は中国・郝万山先生(北京中医薬大学教授、博士課程の指導者、主任医師)の漢方薬治療例。もとの中国語リンク先は、郝万山经方36首故事1 - 好大夫在线

午後になると熱が上がり、大汗をかく男性。たくさんの漢方薬を飲んだけど治らない

 

私が東直門病院で仕事した時の話です。

 

ある日、56歳の患者さんが来ました。南の人で方言の癖がすごくて、聞き取るのが大変だったので、非常に印象深かったです。

 

患者さん「先生、私の病気は治しにくいです。ここで3ヶ月治療しています」

私「どんな症状ですか?」

患者「毎日午後3時になると、体が熱くなって大汗をかきます。シャツがびしょびしょになるくらい汗が出ます。シャワー浴びて、ズボンまで着替えてから、やっと午後の仕事ができるのです。熱くなる時間は、午後3時から始まり、4時になると収まります

 

午後になると熱くなる、大汗をかくのは漢方薬で治った

 

患者さんのカルテを見たら、以前の処方は陰を養う処方、気を補う処方、熱を取る処方。すべての私が想像できる治療法を使っていました。

 

特に前回の処方箋は汗を収める処方箋で、生薬の種類も量もすごい多かったです。たとえば麻黄の根30g、浮小麦50g、焼いた牡蛎50g、分心木20g、金桜子30g。

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浮小麦(小麦とも言う):熱を取り、汗を止める作用がある生薬。

私が知っているすべての汗を止める生薬が入って、皮ふの穴を強化する生薬を入れているから、「これは絶対に効くだろう!これで効かなかったら、私も打つ手がない!」と思いました。

 

私「おじいちゃん、前回の漢方薬を飲んでどうですか?」

患者「1回飲んでから怖くて飲んでないよ」

 

私「なんで怖くなったのですか?」

患者「この漢方薬を飲んでから、午後3時に熱いのは相変わらずあったよ。以前はね、汗が出て着替えすれば仕事ができたけど、この漢方薬を飲んでからは汗が出ない。午後はずっと体が熱くて何も集中できないし、イライラしてくるんだよ。だから私は怖くて飲んでない」

 

▼李哲の補足説明:

午後だけ熱くなり大汗をかくのはもちろん、上半身だけ熱くて下半身は寒いのも病態です。臨床で見ると、西洋薬の副作用からくる時もあります。以下の記事がその一つの証明。

 

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汗をかかせることで大汗を治すアドバイスが、患者の不信感を買った

私は患者さんに言いました。

「汗を止めるのがダメだったら、汗をかかせましょう」

 

私の話を聞いて、患者さんは表情が固まりました。

「先生、こんなに長い間治療したけど、汗をかかせる先生はいなかったです。発汗薬で大丈夫ですか?」

 

患者さんは私が若すぎるから、頼りがなかったと思ったでしょう。

 

患者「発汗の漢方薬を飲んで、効かなかったらどうしますか?」

私「私の処方箋で効かなかったら、私の師匠のところに連れて行きます」

 

当時、年をとった老中医は一般人の診療には出てない。老中医に診てもらうのには、とても困難だったのです。

 

患者さんは私の話を聴いて喜んでました。

「良いですよ。処方箋をお願いします!」

 

私が出したのは、3日の桂枝湯。

桂枝湯はあまり使った経験がないし、患者さんにも飲み方を伝えてなかったです。

 

▼李哲の補足説明:

漢方薬には飲み方によって、処方を分けるときがあります。以下は一つの症例。関節リウマチの強烈な痛みを治す処方箋、なぜ2つに分けるのかを説明が入っています。

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3日後、患者さんはまた来ました。

「先生の漢方薬を飲んだけど、変わってないです」

仕方がないので、私は患者さんを連れて胡希恕先生に会わせました。

 

胡希恕先生は当時、東直門病院で『傷寒雑病論』の処方をよく使う老先輩。その時、胡希恕先生は偉い幹部たちだけ治療していました。

 

私「胡希恕先生、難しい患者さんを連れて来ました。この患者さんは、毎日午後3時になると熱が上がり、汗が止まらなくて2つも上着を着替えしないといけません。以前の漢方医は、みんな気を補って皮ふの穴を固定する、汗を止める生薬を使ったけど、効果がないそうです。私は3日前、桂枝湯を処方し汗をかかせようと思いました」

 

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桂枝湯の主力:桂枝の画像。

胡希恕先生は患者さんに質問しました。

「この漢方薬はどうやって飲んだのですか?」

 

私は気づいたけど、患者さんは言葉を濁しながら話していました。「えーーと、午前中1回、えーーと、夕方1回です」

 

あとで分かりましたが、患者さんは私の漢方薬を飲んでない。患者さんは最初から、私の師匠に診てもらうことを狙っていたのです。

 

患者さんは私を信じてない。

汗をかかせる治療法で、大汗がでるのを治せると思ってもない。だから、3日後に来た時、私の師匠に診てほしいと言ったのです。

 

▼李哲の補足説明:

「若者のお医者さんは経験不足だから、治せないだろう」と、人を見た目で判断するのはダメですね。以下の症例も最初は先生を疑ったけど、1発で良くなり、先生を信じるようになった患者さんが書かれています。

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同じ桂枝湯だけど、飲み方だけ変えてもらった

 

胡希恕先生「処方はとても良いよ!飲み方を伝えましたか?」

私「ちゃんと伝えてないです」

 

胡希恕先生は患者さんに向かって話しました。

「毎日1回だけ飲みます。あなたは午後3時から熱くなって大汗をかくでしょう?そしたら、1時半に飲んでください。飲んだあとは熱いお湯もたくさん飲んで、少し厚着にしてジンワリ汗をかくくらいにしてください。これで3時に熱くなるかどうかを見ましょう」

 

3日分の漢方薬をもらって、おじいちゃんは喜んで帰りました。

 

▼李哲の補足説明:

桂枝湯は様々な自覚症状を治すときに使います。たとえば夜尿症。桂枝湯以外に、トリカブトを追加しただけで治るのです。関連記事は以下をご覧ください。

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6日分の桂枝湯を飲んでから、午後になると熱が上がり、大汗をかくは治った

 

4日後におじいちゃんが来たとき、すごい喜んでました。

「先生、発汗薬は本当に効きますね!

1日目の午後に飲んで、熱いお湯も飲んで体にジンワリと汗が出ました。着替えする程度まではいってないです。そして、3時になって私は発熱するのを待っていました。なのに、あまり熱くならない。汗をかく量も減って、下着を替えるだけで済みました。

 

2日目は熱くなるのがさらに減って、着替えしなくても大丈夫だったです。3日目は更に軽くなり完全に着替えする必要がなくなりました。漢方薬は本当に効きますね!

 

私「それでは、また3日分を出します。」

患者「胡希恕先生に診てもらわなくて良いですか?」

私「大丈夫です。しかも、胡希恕先生はとても忙しいので」

 

その後、患者さんは姿を消しました。

3ヶ月後、私は部署が変わって病棟勤務になりました。

 

▼李哲の補足説明:

異常な汗には寝汗があります。

寝汗は末期癌患者さんによく現れる症状。西洋医学では特に治療法もないけど、漢方薬は様々な諸症状を治せるのです。以下は一つの症例、参考になると幸いです。

 

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少しは再発したけど、もう1回6日分を飲んでから完治

 

ある日、患者さんがまた探しに来て、「前回胡希恕先生に診てもらってから、6日分の漢方薬を飲んで大汗は出なくなったけど、最近また少し出ます。前の処方箋そのままで良いでしょうか?」

 

私「そのままで良いです」

そして、6日分を出しました。

 

患者さんが言うのは「郝先生たちの勤務地はよく変わりますね。この漢方薬を飲んでから再発したら、先生をまた探します。先生がどこに行っても必ず探します。転勤しても書類上にいろいろあとが残るから、必ず誰かが知っているはず!」

 

もう30年過ぎましたけど、患者さんは探しに来てないです。

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桂枝湯に入っている大棗(なつめ):漢方薬によく使うもの、医食同源の一つの代表である。

李哲の解釈と感想

ある時間帯だけ汗をかくのは、『傷寒雑病論』で書いたのは「営衛不和」だと言います。

 

私なりの解釈ですが、皮膚の下と筋肉の間に風邪(ふうじゃ)がいて、ある時間帯になると体はその風邪(ふうじゃ)を見つけて、外に出そうとします。追い出す方法は汗をかくこと。でも、自分の免疫力(軍隊)が少ないので、完全には追い出せない。だから、いつまでも汗をかく症状があるのです。

 

桂枝湯は「営衛不和」を調和する漢方薬。

軽く汗をかかせる事で、皮膚の下に残っている風邪(ふうじゃ)を完全に追い出します。

 

以前、葛根湯に関して書いたことがあります。葛根湯は桂枝湯に葛根と麻黄を追加したものなので、以前の記事を見れば桂枝湯の仕組みも分かります。

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li-hari.hatenablog.com

 

以上は漢方薬に対する解釈。

鍼灸治療の場合は、もう少しシンプルです。午後3時~5時の間は、足太陽膀胱経が活発な時間帯。この時間帯に問題が起きるのは、膀胱経に問題があるからです。

 

『黄帝内経』と『難経』に書いた治療法は、兪穴を刺すこと。つまり、膀胱経の束骨を刺せば2~3回で治る。ツボは1つだけで良いです

 

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束骨穴:膀胱経の兪穴(ゆけつ)。


束骨で汗が止まる?

古代のツボの紹介には、こんな作用があると書いてません。しかし、特別な時間帯に起きる不調は、その時間帯の経絡を調整すれば治る。これが鍼灸の理論です。

 

肺がんであろうと心臓病であろうと、午後3時~5時だけ体調不良の場合、一律膀胱経の束骨で楽になります。

 

なぜその時間帯だけ体調不良なのか?西洋医学は理解できないでしょう。最近になって時間医療学がありますが、イマイチ分かってない。

 

中医学は数千年前から、すでに時間と病気に関して論じ、相応の治療法まで備えています。 ある時間帯だけ体調不良の方は、鍼を試してください。すごい早く治るから。